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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
 

「いい。いいんだよ、陽菜」

「ううん、言わせて。最初年下上司、しかも九年前に、満月で関係した……えっちが上手かった中学生が上司なんて、最悪だと思った。……忘れていたなんて、あたしの方が最悪だった」

「はは……」

「営業モードでとにかく線を引こうと残業してて。キス……しそうになったでしょ」

「うん。……したかった」

 心が甘く疼く。

「電話が鳴らなかったら、あたしは拒まなかった」

「………」

「……あの時から、多分あたしは……朱羽に惹き込まれていたんだと思う。仕事と友達が居ればいいって本気で思ってたあたしが、満月でもないのにキスをしようとするのなら、もうそれは……」

 朱羽は優しくあたしの後頭部を撫でる。

「それを認めたくなかった。会ってすぐの九年前に過ちを犯した相手を、そんな対象にするなど。すべては満月のせいだと思うようにしていた。同時に、快楽で惹かれたとも思いたくなかった。だから言ってたわよね。"あたしはそんなに簡単な女"ではないって」

「……うん」

「あれはあたしの戒めでもあったの。その境界は、満月を受け入れてくれた時に、なくなってしまった。防波堤が崩れて、やじまホテルの夜は本当に朱羽が好きで好きで仕方がなくて。……つらいね、好きだと言えない、繋がれないセックスは。初めてあたしは、セックスが愛の営みだという意味がわかったわ。本当にごめんね、あたしがこうだったから色々と我慢させたり無理させたり」

「……こちらの方こそごめん。あなたの心が向くまで待とうとしていたけど、あなたに触れたら、好きが溢れて我慢出来なくなって」

 朱羽はあたしの手に指を絡ませる。

「結城さんの女だと思ってた。忍月に居る時からずっと。どうして同じビル内、こんなに近くにいるのに気づいてくれないのか、どうして俺は会いに行けないのか。普通の男のように気軽にあなたに声をかけることが出来ずに、ずっと片想いをし続けているのが嫌で苛立って。……忍月なんて潰れてしまえと幾度も思った」

「だけどその忍月のおかげで、朱羽は今ここにいる」

 あたしは繋がったその手をきゅっと握った。

「そう。だから複雑」

 朱羽は苦笑した。

 
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