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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
結城におぶさっているあたしは、長身の香月課長よりは高くなっているはずなのに、刃物よりも鋭く氷よりも冷たい眼差しを受けて、彼の足元で動くアリほどの小さな生き物になってしまった気分だ。
それならいっそ、思い切り罵倒して踏みつぶしてくれればいいのに、彼は萎縮するあたしを見つめたままだ。
決して好意的には思えないその瞳は、爽やかな朝の光を浴びているはずなのに、闇よりも深い色に淀んでいるように見える。それなのに、怯えるあたしに、彼は笑って見せたのだ。
極上に整った顔での笑みは、ぞっとするほどに美しく、同時に冷酷で。
怖っ!!
さらに改めて考えてみれば、ここに彼がいること自体が怖い。
「課長なんでここに!? そこ、うちなんですが!?」
まさかこのひと、ストーカー!?
動揺に声がひっくり返った。
「電話番号を知らないので、直接きました。タクシーで一度目にしているから。集合郵便受けの名前が鹿沼のものは、ひとつしかなかったので……」
ああ! あたし一昨日、タクシーでこのマンションだと告げたんだ。
「それで……、朝から何のご用で……? 会社じゃ駄目だったんですか?」
すると、昨日までのセットが崩れ、さらさらとこぼれ落ちる長めの前髪を、手でくしゃりと掻き上げ、自嘲するように笑った。
その顔は頼りなげで――、
「そう……ですよね。あなたは元々、結城さんと抜け出す気でいた。だから、心配することはなかったはずなのに……」
泣き出しそうなほど。
課長は床に置かれていた荷物を手に取り、言った。
「あなたのバッグと……、これ…どうぞ」
バッグは衣里が持っていてくれているだろうと思っていたけれど、香月課長が持ってくれていたらしい。
そしてもうひとつは、コンビニ袋。
既に温くなっているプリンが数種――。
これは、今しがたコンビニで買ったものではない。
もっともっと前に買われたものだ。