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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
 

 昨日のスーツ。セットが崩れた髪。

 顔色が悪い陰鬱な表情。


 どれくらい前から?

 病人だと思っていたら、こんなに朝早くから駆けつける?


「……もしかして、課長。まさか昨夜からずっとここで?」


 あたしが結城に抱かれている間、家に戻っていないあたしを心配した課長は、ここで夜を過ごしていたとか?


 そう思ったら、得もしれぬ罪悪感に胸がきりきりと痛んだ。

 だが――。


「なぜ私が、ここであなたを待つと? 随分と自惚れ屋ですね」


 課長は嘲るような笑いを浮かべた。


「ちょっと前に寄ってみたところなんで、会えてよかったです。では会社で」

 ……立ち寄った? 座り込んでいたのに?

 いつものような鉄面皮のままで、あたし達とすれ違って帰ろうとする香月課長を止めたのは、それまで黙って聞いていた結城だった。


「……なにか、言いたいことは?」


 するとすっと課長の足が止まった。


「そんな怒りに燃えた目のまま、俺を無視して会社に行くんですか?」


 低く静かな声が聞こえる。


「言って欲しいんですか? 今までどこでなにをしていたのかと」

「こうやって、黙って怒りをぶつけられるよりは」

「……あなた達の会話が、ここまで響いていました。今更なにも尋ねることはありませんが、ひとつ」

「なに?」


「あの後、社長も重役も社員も皆心配していました。皆を欺いて抜け出す必要があったのですか? こんなこと知られたら、あなた達の信用は下がるだけ。私に口止めしなくていいんですか?」

「違う、あたしは騙してなんか……」


 しかしあたしの言葉は、


「それとも、私という存在は脅威にならないと?」
 

 不快さを露わにした、課長の言葉に上書きされた。


「香月課長。……脅したいんですか?」


 上から見下ろす限り、結城と課長は睨み合っている。

 
「それで利があるならば」


 香月課長があたしを見た。

 突き刺すような攻撃的な視線を。


 眼鏡越し、薄茶色の瞳の奥には憤嫉が渦巻いていた。

 木島くんを襲ったと思われているように、やはりあたしという女を侮蔑しているのだろう。

 否定出来ない環境にいるのが口惜しい。

 


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