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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
***
シャワーヘッドを腰にあて、しばらく飛沫マッサージをしていたせいか、生まれたての仔牛のような、へろへろな足腰はまともになった。
よし。これならいつも通り、電車に揺られて会社にいける。
結城は、心臓発作が起きるような、滝修行よろしく冷水シャワーを浴びて、先に会社に向かった。
ひとの……髪につけるワックスを勝手に使用しておいて、奴が使っているものより柔らかすぎるだの匂いが女っぽいだの散々文句を言って出て行った。
そういえば結城の荷物はどうしたのだろうか。ホテルにもなかったけれど、昨日手ぶらで会社に来たのだろうか。
満月の夜は、タバコをやめるほどの気を遣ってくれる男だから、あたしが仕事中でも突然発作を起こす、そんな万が一のために、荷物が邪魔にならずに動けるよう、考えていたのかもしれない。……よく思えば。
「……っ」
衣里からのLINEを見たら、胸がぎゅっと苦しくなった。
課長はやはり昨日、あたしが結城と抜けた後からあたしの家に居たんだ。
――ちょっと前に寄ってみたところなんで、会えてよかったです。
なんですぐ来たなんて嘘をついたの?
居ないとわかったのなら、なんで帰らなかったの?
帰ってくれていれば、結城との関係を知られずにすんだのに。
香月課長は……、もう会社にいるだろう。
昨日は結城とも和やかに談話して和気藹々としていたのに、さっきは一触即発のような緊張感があった。
きっとあたしは、結城と付き合ってもいないのに身体の関係がある、ふしだらな最悪の女になりさがっているだろう。
どんな嫌悪感を向けられるか、正直怖い。
結城は、課長が中学生の時にあたしと関係したことを知った。
課長は、あたしが付き合ってもいない結城と関係していることを知った。
その課長が直属の上司で、その結城が仲良し同期の営業課長で。
これから、すべてがなかったことのように平和的に進めるような気がしない。まったくしてこない。
「頭痛い……」
満月が過ぎた次の日は、いつも爽快に出社できるのに、今は憂鬱で頭が重く、重い腰がなおさら重くて歩くのも億劫だ。
だが、すべてはあたしのこの特殊な性癖のせいだ。
課長も結城もその犠牲になっているだけなのだ。
「はあ……っ」