この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
着替え終わったあたしは、テーブルの上に置かれたままのコンビニ袋の中を覗いた。
中にあったのは数種のプリン。
『俺様プリン』『殿様プリン』『王子様プリン』『何様プリン』
ふさげた名称の、知る人ぞ知る「我がまま」プリンシリーズ。
「俺様プリン」は、焦しカラメルソースが絶妙で、「殿様プリン」は、金粉入りのミルキーソースが巧妙で、「王子様プリン」は、果物がびっちり詰まっていて、「何様プリン」は、真っ白いプリンの中にランダムなソースが混入されている。
この四種は、都内では圧倒的に店舗数が少ない「バルガー」という名のコンビニの看板で、このプリンを開発したのは男性、現役モデルの大学生だとか。
スイーツを開発出来るモデルというので注目を浴びているらしいが、どんな大学生かはあたしは知らない。そんなことどうでもいいくらい、「我がまま」シリーズは美味しすぎる。
まさかこれを香月課長から貰えるなどと思わなかったが、この憂鬱な状況だからこその、神様からのエールかもしれない。
「俺様プリン」をあけ、スプーンでプリンを掬い口に運んだ。
「ん~。美味し……」
これを知ったのは、あたしがバイトしていたコンビニだった。
そのコンビニこそ「バルガー」であり、当時は「俺様」と「王子様」の二種類しかなかったが、真夜中のシフトがある時、先に帰った店長が更衣室の冷蔵庫に差し入れとして入れておいてくれたおかげで、あたしは眠くても頑張れたようなものなのだ。
そんな優しい店長だったから、あたしは辞めても満月の日にヘルプに行ったんだ。そしてその帰り、中学生だった香月課長と会った――。
「……苦っ」
あれから九年経つけれど、俺様プリンの焦しカラメルソースの苦さだけは今もなお健在のようだ。
――……ひとが信じられなくなりました。
――恋人に、なろう。
変わらぬものがあることが嬉しくて、思わずほろりと涙してしまった。