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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
 

 その時声がして、襖が開く。

 扇子を前に置いて、名取川文乃が入ってきた。

 手で襖を開けて、正座しながらにじり寄るようにして中に入ってきた感じに思えたけれど、朱羽も衣里も鋭い目で見ている。

 彼女は正座したまま両手をそっと前に出し、指先を畳につけると、腰から折れるようにしてお辞儀をした。

 そう、朱羽がずっと気にしていた拳をつけたお辞儀の仕方でも、普通の土下座のように指先をべったりと畳につけるのでもなく、手を立てるように……爪先を軽く畳につけるような感じで。

 拳をつけるのが名取川流にとって正しいのか正しくないのか、これでわからなくなったが、それでも彼女の所作は、マナー教室の先生のように優雅で、とってつけて演技をしているようにも見えなかった。

 さらにお辞儀から直った正座の仕方が、太股の上に両手を離して置くのも、なにか女性的な仕草のお辞儀でありながらも、どことなく男っぽい。

 彼女はそのまま立ち上がり、お茶を点てる(点前)茶道具があるところに向かうと、ほぼ同時に給仕が、名取川文乃と同じようにお辞儀をしながら、お盆に大きな器を乗せて、朱羽の前に置いた。

 器にはお菓子が入っており、お盆には半紙が四つ折りになったようなものと爪楊枝のようなものがたくさんおかれ、長い箸もあった。

 朱羽は、畳に拳をつけるようにして前傾姿勢となって礼を示し、懐紙ではなく半紙を取って、その上にオレンジ色をした和菓子を箸で乗せ、楊枝をとった。

 衣里も同じ事をしたということは、そういう作法だとふたりは思ったんだろう。だったらあたしひとり懐紙を使うのは野暮だ。

 名取川文乃は、帯の右側につけていた帛紗を細く小さくすると、茶道具を拭き始めた。

 和菓子は紅葉型の、オレンジ色とグリーンのグラデーションが綺麗な練り切りだ。切ってみるとこしあんが入っている。


「おいし……」


 空きっ腹にあんこは太るだろうか。

 そんな危惧の頭を過ぎったが、関係なくぱくりと食べてしまえば、さっと横から新たな半分があたしの皿代わりの半紙に現われた。

 結城だった。

「お前食ってねぇんだろ?」
 
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