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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
朱羽は彼女に、顎を引いて両拳を畳につけたポーズで挨拶をすると、右手を伸ばし、左手で茶碗の底にあてるようにして目線の高さまで持ち上げた。
そして茶碗を時計回りに回した。
あたしが知っている裏千家かと思ったが、回すのは1回だけ。
そして三度飲んだ後、指先で口をつけた茶碗の縁を左から右に拭き取った後、さらに手刀のような形で、小指で左から右へ拭いた。
なんだあれ!
見慣れぬ仕草があって動揺をしているあたしの前で、衣里は平然と朱羽と同じ事をした。
そして回ってくるあたしの番。
持ち上げて、一度回して、指で拭いて小指でも拭く。
ぶちぶちと独りごちながら、泡立ててある極上の薄茶を頂き、なんとか結城に回した。
だが結城はパニックになっているらしく、あたしと杏奈が言葉で教えて上げて、なんとか次へと回せた。
「名取川流は、どんな流派だとお考えに?」
いつの間にかこちらを向いている名取川文乃に、朱羽がきっぱりと答えた。
「広島に本家がある上田宗箇流(うえだそうこりゅう)、武家茶道と呼ばれるもののひとつ」
武家茶道?
だけど思うんだ、彼女の柄杓を持ったあの動きは、刀を持った武士のようだったと。
「……ただ私は、武家茶道について上田流の所作しかわからず。名取川流の作法は、他の武家茶道の流れを汲むのか、正直なところよくわかりません」
朱羽の素直な言葉に、彼女は嘲笑うのではなく、満足げに笑った。
「なぜ、武家茶道の流れだと?」
朱羽の代わりに衣里が言った。
「拳をつける挨拶と、大ぶりな点前と、右側にある帛紗です。普通帛紗は左側につけますが、右につけるのは刀を左につけていた武士の茶道しかありません」
「ふぇぇぇ~」
この変な声は木島くんだろう。