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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
朱羽は名取川文乃を見据えて言う。
「あなたは夕食の時、拳をつけて教えてくれました。だけど、茶室のあなたは違った。男点前と女点前があり、懐紙を用意しておいてそれをダミーにして半紙を使う流派は、上田宗箇流しか思いつきませんでした」
「私も武家茶道は知識だけですので、仮にここの流派がそうであったとして、きちんとその極意をわかっているわけではありません、私達は」
高飛車な態度には出ない衣里に、彼女は言った。
「正直を以て心を守り、清浄を以て事を行い、礼和を以て人と交わり、質朴を以て身を修める……藪内流が名取川流の基本精神であり、上田流と融合した形です。ですから、厳密に言えば、あなた達の上田流だけの作法では正解とは言えません。ただ、こんな僅かな手がかりで武家茶道と見抜いたのは素晴らしい。普通なら有名な三千家のものだけを茶道と考えるでしょうから」
名取川文乃もまた、とげとげしさが感じられない。
なんでこんなに空気が清廉になっているんだろう。
「あの掛け軸に書かれてある和歌、読める? あれは藪内流の言葉なんだけれど」
彼女の問いに、衣里が答えた。
「すなほなる心をうつすわざなれば 手つきまがらずすなおなるべし」
「そう。茶道とは心を映す鏡を作るようなもの。お茶を点てる時、お茶を飲む時……不誠実な心があるのなら、美味しくないお茶になってしまうわね。茶の道を究めるということは、己自身も磨いていかなくてはならないの。決して作法がすべてではないの」
彼女は、寿司を食べた大広間でこう言った。
――だけど、まだ完全にあなた達の言葉を信用したわけではない
――言葉ではどうとでも言えますからね。ですから、食べ終えたら……茶室に来なさい。
彼女が求めていたのは、作法ではないのだとしたら。
「……あなた達はこの茶室でなにを感じたかしら。あなた達を映した茶は、どんなお茶だった? どう……鹿沼さん?」
あたしですか!!
名取川文乃に、自分自身を語れと言われている気がした。
「ひと動かすには、建前ではだめなの。あなたの本当の心は? お茶を通して、なにを感じた?」
……そう、素の自分を。