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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
真っ直ぐな名取川文乃の眼差し。
あたしはすっと息を吸って、一度に吐いてから答えた。
「ひととお茶は、どちらも動となり静となるものだと思いました」
「具体的に」
彼女の口調は物静かではあるけれど、やはり大家としての威圧感がある。
それでも――。
「うまく言葉に出せないんですが」
「いいわ。あなたの言葉で言って頂戴」
「……はい。あたしは六年前に、社会人としての礼儀の一環として、本当に僅かな時間でお茶を教えて頂きました」
「なに流?」
「裏千家です」
「そう。いいわ、続けて」
「その時は、教えられた作法を、テレビや時代劇に出てくるような雰囲気でしなきゃと頭で考えていたから、ただお抹茶の飲みものを頂いたくらいにしか思っていませんでした」
彼女は深く頷き、続きを促した。
「正直、たくさんの流派があるとは聞いても、どれもお茶を点てるだけのような気がしていました。茶碗を時計回りに回したから、反時計回りに回したから、或いは回さないからといって、お茶の味が変わるわけがないと。変わるのだとしたら、用意された抹茶が高級か粗悪かの違いくらいではないかと」
素直に言うと、彼女は控えめながらも確りと笑った。
「茶菓子だって、お皿でも懐紙でも半紙でも、どれに乗せても、お茶菓子の味は変わるわけはない。お辞儀の仕方にしても、拳にしようが指先を置こうが爪を立てようが、挨拶の意味は変わらない。だから茶道において、作法が違うために別の流派となったのなら、作法ってどんな意味があるのかなと」
ああきっと、流派がある茶道に喧嘩を売っているのかもしれない。作法が違ったところで無意味だと、あたしはそう言っている。
それでもお茶をしたことがあるとは言えない、ほぼ初心者のあたしにしてみれば、それが素直に感じた心だ。