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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
「あたしは武家茶道というものも、上田流というものも藪内流というものもまったくわかりません。ですが、名取川さんが点てたお茶は、女性的な繊細な美しさはあるのに、武士のように凜として勇ましかった。それを"動"とするのなら、そうして点てて頂いたお茶を飲んでほっと息をついたあたしの心は"静"へと変わっていました」
彼女はじっと、なにかを問い質すような強い視線をあたしに向けていた。
「……そして、静となったあたしの感想を静かに聞きながらも、動の眼差しを向ける名取川さんに対し、あたしの表層の意識は"どう答えよう"とさざ波がたって動となりえているのに、深層の心は落ち着いたまま。……それはまるで、幾重にも広がる水紋のよう。波が立っては引いていく……ひととお茶の関係は、そしてひとというものは、ひととひととの関係は。絶えず動へ静へと揺らぎながら、永遠に続いていけるものだと」
「鹿沼さんは、動と静の関係を見いだしたのね」
「……間違っていたらごめんなさい」
すると名取川文乃は笑った。
「茶の道に答えなどありません。自分の心と向き合いながら、絶えず追い求めるもの。鹿沼さんがそう感じたというのなら、それが鹿沼さんが見いだした真実のひとつ。動の中の静、静の中の動……それを感じて頂けたのなら嬉しいわ。それなら、作法や知識ばかりを口にしていたあのひと、忍月コーポレーションの副社長さんより、よほど私達が求めているものに近いわ」
「は、はあ」
あたしは、褒められたのだろうか。
「ねぇ皆さんの中で、お茶を初めて、中国から日本に持ち帰ったのは誰かご存知? 早かったあなた、どうぞ」
なんと木島くんが一番に手を上げ、彼女に促された。
「鎌倉時代の、臨済宗の開祖栄西っす! 茶が普及される様を書いたのが、『喫茶養生記』っす!!」
「木島、すげ……」
結城のぼやき。
「俺、大学受験日本史っす!」