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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
まるで発作の前兆のようなそれは、冷やかしや侮蔑、歓喜や羨望のようなものに似て、高低ある多くのざわめきは、様々な負の感情をあたしに運んできた。
なに?
あたしに?
これ、嫌だ。
高校時代を思い出してしまう。
ざわめく教室。
揶揄するような視線。
あからさまな悪感情。
密やかなる嘲笑。
皆があたしを敬遠して孤立した、あの時のものによく似ている。
今までうまくやってきたのに、なんでこんなことになったの?
身体で感じる社員の視線、脳裏で蘇生する昔の朧な記憶。
そこに急速度で輪郭を象った線が円となり、中心に向かって金色に塗られていく。
……満月になる。
冷や汗が出てくる。唇が震え、思わず黙りこんだあたしの手から、すっとノートが抜き取られて我に返る。
「あ……」
隣に居た香月課長だった。
手に包帯を巻いている。怪我をしたのだろうか。
冷たい顔は相変わらずだったけれど、今度は課長が何事もなかったかのように、玲瓏な声であたしのノートに書いていたものを報告として読み上げた。
ざわめきが大きくなった時、突然、香月課長は片手で自分の机をバンと叩く。
それに驚いた社員が黙り込み、場がシーンと静まりかえると、課長は周りを見渡しながら、悠然と笑った。
「では続けます」
怖いと思った。
だけどそれ以上に、この不可解な嘲笑を鎮めてくれたことが嬉しかった。
いくら頑張って働いてOLとしての自負があろうとも、こうした、突然あたし個人に向けられたものには、対処できない。
男に守って貰う弱い女にはなりたくなかったけれど、助けて貰ったことに泣き出したい弱い自分がいる。
「それと営業とタッグを組んで、効率化を目指します。軌道にのるまで皆様に色々ご迷惑おかけする部分が出てくるかもしれませんが、その時はどうぞよろしくお願いします」
頭を下げたままのあたしの隣で、課長の声がまだ続く。
「説明会は今日の十時から。WEBでの用意ができ次第お呼びしますので、二階のA会議室にお越し下さい」
……。