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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
***
ところ変わって、社長が入院している病室。
あたしと朱羽、結城と衣里は、ベッドに横たわったままの社長と、宮坂専務に報告中。名取川家に行った他の社員達は、時刻ももう遅いからと帰した。木島くんも杏奈も病室に来たがったが、これからが戦い。それに備えて今夜は家で休養をとって貰うことにした。
病室には沙紀さんがいなかったが、外出しているらしい。
「――で、どうだった、名取川文乃は?」
社長が頭をこちらに向けて、あたしに尋ねる。
――お~、カワウソ。さっき名取川さんから電話あったぞ。
うまくいったという結果を知っていた社長は、あたしに感想を求めているようだ。
「はい。名取川さんは最初こそ嫌なひとでしたが、理解を示してくれた後は終始にこにこしてくれていて。そして見て下さい、泥が跳ねて酷くなっていたあたしを始めとした全員のスーツを綺麗に洗濯をしてアイロンまでかけて下さいました。靴までも」
着る服がないから帰りも浴衣かと思いきや、すっと差し出されたのは見慣れた服。それはまるで新品のように綺麗になっていた。
洗ってくれたのは、藤色の服を着たおばあさんだそうだ。
洗濯大好きの木島くんがこの奇跡に目を瞠り、しゅうしゅうしながらその秘訣を聞き出そうと追い回した。気の毒な彼女は、名取川文乃の乳母であったらしい。
洗濯や清掃、食事に至るまで、家事全般は彼女が取り仕切るそうで、彼女のおかげで名取川家は清潔で綺麗なのだと、文乃は笑った。
「凄く殊勝な感じで、あんなに優しくていいひとだとは思いませんでした」
「くくく……」
社長は愉快そうに口をつり上げて笑う。
点滴をしていない、あたし側にある気怠そうな手が上に上げられ、社長は目元を覆うようにして、微かに身体を震わせた。