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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
「社長?」
「いや……あの名取川さんが優しい? 殊勝? にこにこ? くくく……」
笑う社長とは裏腹に、パイプ椅子に座る宮坂専務は腕組をしながら、口を開けたまま動かない。いわゆる、「ぽっかーん」という奴だ。
「ええと……専務?」
顔を覗き込み、彼の目の前で手をひらひらさせると、専務は数回瞬きをしてから、驚愕という表情を作って言葉を吐き出した。
「待て待て待て! 名取川文乃って、気難しくて礼儀にうるさくて有名な女なんだぞ!? 首相クラスすら、礼儀がなってねぇと袖にする。お前ら、彼女がOK出すような完璧な態度だったのか?」
「とんでもない! せっかく見つけたネコを捨てると言われたから、あたしカチンと来て噛みついたし、夕食だって"働かざるもの食うべからず"と、漢字クイズに正解しないと寿司が食べれないと言うから反論してしまったし。お茶の時だって、作法なんてどうでもいいと言ってしまいました」
今思えばすごいことばかりをしていたと、大笑いした。
「カバ、お前……命知らずの奴だな……」
専務が呆れ返り、社長が喉元でくつくつと笑う。
「誰もこの暴走カバを止めなかったのかよ!? 朱羽、お前も居て!?」
「止めるどころか俺達も」
「鹿沼を支持して俺も噛みつき、次期社長の無能ぶりを発揮しましたし」
結城と朱羽が顔を見合わせて言うと、専務はなぜか涙目で衣里を見た。
「お前はお嬢だろ!? お前なら……」
「私ですか? 心の中で"そうだ、そこだ。行け行け"と。中々にいいこと言うんですよ、皆」
笑う衣里に専務はがっくりと項垂れた。