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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
 

 通行人があたし達を見ていた。

 揶揄するような声がどこからか聞こえた。

 口を外そうとすると、朱羽の手があたしの耳を塞ぎながら、なお一層情熱的なキスをしてくる。


 幾らキスをしても足りない。

 朱羽の濃厚な匂いにもっと浸りたい。


 まるでネコになった気分だ。

 オスとはいえ、あのネコも朱羽に恋をしたのだろうか。

 朱羽が帰る時、みゃーみゃーと悲しげに鳴いていた。

 それが共感したように、あたしの頭に響いている。

 離れないで欲しい。
 離さないで欲しい。

 そんな想いを口にしたら、あのネコのような声で鳴いてしまうのだろう。

 ヘッドライトを浴びながら、朱羽はあたしを求め、朱羽はそんなあたしを求める。

 まるで長年会っていなかった恋人のように、逢瀬が終わってしまうかのように、性急なキスが止まらない。

 やがて朱羽がぎゅっと苦しそうに目を瞑ったと思うと、ちゅぱっとリップ音をたてて唇を離し、あたしをぎゅっと抱きしめた。

「……ホテル行こ?」

「……っ」

「あなたの熱いナカに入りたい。もっと愛し合って溶け合いたい……っ」

 それはあたしも思っていたことだ。

 朱羽に抱かれたい。
 朱羽に愛されたい。


 だけど――、今は駄目だ。

 ひと握りしかない自制心がそう囁く。

 もう何回も抱き合ってきたんだから、辛抱しろ、と。

「陽菜、行こう? 愛し合おう?」

 どこか切羽詰まったような朱羽の声に、あたしは掠れた声で答えた。

「……駄目。買い物して帰らなきゃ」

「我慢出来ない」

「我慢して?」

「陽菜っ」

「次にしよう? 今日だってお昼までずっと一緒だったんだよ? 少しでも離れられなくなっちゃう」

「いいよ、離れられなくなってよ。その方が……っ」

「朱羽。聞き分けよう」

「……くそっ。また俺だけかよ、盛ってるの! ああ、こんな状態でお預け? 男は、簡単じゃないんだぞ」

「だけど今までも我慢出来たじゃない。朱羽は我慢出来る!」

「人ごとだと思って。それは片想いの時だろ。あなたと愛し合えるようになってからは、前よりキツいんだぞ?」

「大丈夫! あたし、朱羽は我慢出来ると信じてるから!」
 
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