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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon



 ***


 机には箱から取り出した、全社員分と思われる黒いタブレット。

 それを横に並べ、あたしは叫びながら、タブレットから伸びるコードを、USB変換アダプタを取り付けた電源タップに突き刺した。


「あ、た、し、は、ざ、つ、よ、う、か!」


 よし、一気に九台完了。これで充電作業は終わった。


「次は――」


 アプリダウンロード。いちいち画面のブラウザに、アドレスを入力しないといけないのが非常に手間だ。

 コピペ出来ないから、すべて手打ちして順々にダウンロードしていく。

 なんのアプリかわからず、タップして開いてみたのだが、初期パスワードが必要らしく、すぐに断念。以来黙々と作業をしている。

 課長に助けてくれてありがとう、プリンも美味しかったといいそびれてしまった。

 そういうことを気軽に言ってもいいのか、少し悩む。


「身から出た錆とはいえ、なんかやりにくいな~」


 そんな時、ノックが音がして人が入ってきた。


「鹿沼ちゃ~ん」


 杏奈だった。ここ最近サーバー室に籠もりきりだったから、ここまで間近で会話していなかったが、今日もまた一段とピンクのふりふりと、いい縦巻き具合。

 これが34歳だとは思えない。お化粧はしているけれど、お肌もぴっちぴちじゃないか。

 これだったら木島くんがへろへろになるのもわかる。


「あげる~」


 渡されたのはエナジードリンク。


「あ、ありがと」


 杏奈から差し入れを貰ったのは初めてで、なんだか面映ゆい気分になった。


「あのね~。杏奈、鹿沼ちゃん大好きだから」

「あ、ありがとう?」

「杏奈がこの格好でいれるの、鹿沼ちゃんのおかげなの覚えてるよ」


 あたしは覚えてない。

 社内風紀を乱したのは、あたしだったの?


「杏奈嬉しかったの。だから鹿沼ちゃんのお役に立とうとしてたんだけど、杏奈、見ちゃったの」

「見た?」

「うん。あのね、サーバーの最終ログイン時間は、今日の午前八時。その数分前にメールアドレスがひとつ追加されたの」

「はあ」

「ログインIDは……」


 一体杏奈はなにを言っているのだろう。

 その時、コンコンとまたノックがして、杏奈は素早く言った。


「鹿沼ちゃん、気をつけて」


 その格好とはまるで似つかわしくない、大人の女性の視線で。
 
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