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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
「あれ~、杏奈さんいらしたんですか」
現れたのは、デザイン課の千絵ちゃん。
ふわふわパーマが可愛い、シークレットムーンになった時に採用された、社会人二年目の若い女の子だ。
「ちーす」
杏奈はピースした手を横にして目元に持っていき、ペコちゃんのように片側に舌先を出した。
「ちーす」
千絵ちゃんは、それの左右対称なだけの同じことをする。
「どうしたんですか、主任。変な顔をして。杏奈さんと挨拶してるだけなのに」
「へ、へぇ……、それ挨拶なんだ」
なにこれ、なんの生き物? とか思っちゃったよ。
「鹿沼ちゃん、挨拶以外のなにに見えるの? あ、鹿沼ちゃん羨ましいんでしょー。鹿沼ちゃんもする?」
「主任もします? こうやって……」
「い、いいえあたしはいい。そんな年でもないから」
言ってから杏奈が一番年上だということに気づいて焦ったが、杏奈はなにも感じていないようだ。
「じゃあ杏奈、先に戻ってまーす」
「はーい、杏奈さんまた!」
スキップするように杏奈が出て行くと、千絵ちゃんがポケットから取り出したものをくれた。
杏奈がくれたのと同じエナジードリンクだった。
「主任、私も杏奈さん同様、主任の味方ですからね。私、彼にふられて死にそうになった時、主任にたくさん美味しいスイーツのお店に連れていって貰って、おごって貰ったの忘れません」
杏奈といい千絵ちゃんといい、あたしがすっかり忘れている昔話を持ち出してくるけれど、これは慰めなの?
「こんなに優しい主任が悪女なんて……」
「千絵ちゃん、その悪女ってなに!? 朝から皆がなんかおかしかった気がするんだけれど、まさかそれ!?」
それは直感だった。