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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon

「もうここからは結城さんひとりで頑張らないといけない」
気づけば朱羽が隣で、心配そうな声を出した。
「手はないのかしら……」
すると朱羽が、ぼそりと言った。
「俺の切り札は、……が来てくれたらだけど」
よく聞こえず聞き返したが、朱羽はなにも言わなかった。
専務が許可したのなら、テレビカメラを制するわけにもいかず、ただなにかおかしな動きを見せたのなら、即退場をさせようということを皆で決めている。
必ず会場に誰かがいて、見張っている体制。
監視がついていることに気づいているのかいないのか、カメラマン以外にもメモを取り出して書いたり読んだりしている、マスコミだと思われる人々はかなり自分達の世界に入ってしまっている。
結城の声が聞こえる。
予定では、シークレットムーンの業績報告、それについてどうするつもりなのか、今後会社をどうしたいのか、朱羽と考えた具体的な数字を掲げて、スライドを見せながら話していく。
結城は直前まで、顔色が悪くなるほど緊張していたようだが、さすがは営業課長。しゃべり出したら堂々としている。
「大丈夫、かな……」
見守るあたしの横で、返事がない朱羽の横顔は冷ややかだった。
「……これは、嫌な空気だ」
「え?」
「……株主の反応を見てみて」
曲線を描いて座っているから、見渡すには角度がいる。
移動しながら見てみると、異変を感じた。
「!!!」
聞いていないのだ。
隣同士、或いはひとを飛び越えて喋りあい、真剣な結城に応えていない。そしてそれを議長は注意をしないのだ。
中には真剣に聞いているひともいるが、年寄りは突然、カーッ、ペッ、と大きな音をたてて痰をティッシュに吐き出そうとするし、笑い声や居眠りの音も混ざってくる。
これは――。
「妨害、だね。これで結城さんが負けてしまえば、今度態度を変えて、そこを突っ込んでくる。……随分と子供じみた方法だけど」
「結城……」
結城の声が途切れた。
そして俯き加減となり、頭をがしがしと掻いた。
困ってる……。

