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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon

「大丈夫、結城さんなら出来る」
朱羽の呟きはあたしに向けられたものではなかった。
まっすぐ結城を見据えてこぼれ落ちたもの。
それと同時に、全員が入ってくると、結城が顔を上げ、あたし達を見た。
……微かに、笑ったような気がした。
「……結城、大丈夫じゃん」
衣里も笑う。
「うん、結城ちゃん、好戦的だよ」
「なにかあったっすか?」
「あー、すみません。ここからはカンペを見ずに、俺の言葉で話させて貰います」
あたし達は祈るようにして、結城を見た。
「それと、大丈夫ですか、湯河原社長。お風邪を引いていられる中、総会に出席願い、本当に申し訳ない」
壇上で結城が頭を下げると、カーッペッのおじいさんは、がははと笑い出す。
「すまんの。どうしても出席したくてな。お前さんは、この頑固のジジイの長い話に、にこにことずっと聞いてくれた。今度は私の番だと思っているのに……」
カーッと音がするが、ペッが出てこない。
はた迷惑な音だが、セットにならないと急に心配になる。
「あれは……ティッシュがなくなったんでは?」
衣里の声がするちょっと前にあたしも同じことに思い至り、受付に戻って用意していたボックスのティッシュを手にして、ペッが出来ないおじいさんの後ろから、屈んでどうぞと渡した。
「おお、気が利く……ペッ、ペッ、カーッペッ!」
……気持ちよく、出たみたいでなによりだ。
そこに衣里が、壁際に待機しているホテルの従業員から、おしぼりとコップに水を貰い、あたしに手渡す。
「おしぼりとお水です。どうぞ」
「おお、すまんな!!」
おじいさんはおしぼりで口と手を拭い、水をゴクゴクと飲むと、それから痰は止まった。
「すまなかった。続けてくれ、結城くん」
おじいさんが復活すると同時に、流れを引き寄せてくれる。
ああ、このおじいさんはいいひとなんだ。
怪しく思ってごめんなさい。

