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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon

あんなに怖かった向島専務が、今はそれほど怖くない。
それはきっと、宮坂専務を心配して、よりによって彼を追い詰めた朱羽に電話するほど焦っていた(だろう)向島専務が、なにか可愛く思えたからだ。
あたしはダシだろう。
プーと呼んだのも、もしかすると宮坂専務があたしのことをカバと呼んでいたのを耳聡く聞きつけたから、わざわざへんてこなものを探し出したのではないか。
不器用な男。
杏奈は前方に後ろ向きだから顔はわからないが、杏奈がこんな向島専務を見て、どう思っているだろう。
財閥を担う身であっても、人間。
どんな凍った心も、熱く接すれば溶けるのだ。
あたしは、啓示に思えて仕方がない。
「陽菜?」
あたしは密やかに朱羽の手を握った。
忍月財閥の当主も朱羽の義母も、矢島社長、名取川さんもそして向島専務と同じ人間。
そして必ず、厳冬も穏やかな春になるものだから。
「次は、朱羽の番だよ」
「え?」
「今度はいつも助けてくれる朱羽を、あたしが、あたし達が助ける番」
いつの間にか皆があたし達を取り巻いていた。
その中に矢島社長と名取川さんが居る。
「あたし、負けたくない。だから皆さん、どうか……朱羽に自由を取り戻す手助けをして下さい。あたしの力は弱いけど、皆の力が合わされば必ず朱羽は勝てるから」
あたしは頭を下げた。
「今度は朱羽に、その力を貸して下さい!!」

