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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon

***
着いたばかりの名取川家。
運転手の木島くんに杏奈を連れて帰ってていいよと言ったのだけれど、知らない仲でもあるまいし、ご挨拶しないで帰ったら今後どんな作用を及ぼすかわからないと朱羽が言い、挨拶してすぐ帰る予定のはずが、今こうしてふたりともあたしと朱羽と同じように、前回入ったお茶室に正座しながら名取川文乃の言葉を聞いている。
……すまぬ、木島くん、杏奈。
「私やヤジマが庇ってあげたくても、あの忍月財閥の当主は、身内にはとことん厳しく一方的、外部の者についてはそれ以上に厳しい」
さすがは情報通。
全くの他人なのに、よくご存知のようで。
「逆にあの当主が一番毛嫌いするのは、特出していない"普通"以下の人間。さらに言えば、女性蔑視の典型的なタイプだから、こう言っちゃ悪いけど、鹿沼さん。あなたは限りなくレッドカード」
「……はい」
思わず背筋を伸ばしていた背を丸めてしまった。
「背!」
「はい!!」
……実はもう一時間は話を聞いているのだ。
その前までは和やかで、お茶のみ相手として呼ばれたのかしら……なんて思えてしまうほどに、笑い声が混ざっていたというのに、十分くらい前に本件に入った時には、背が疲れて足が痺れている……その鈍った態度を注意されてこれで三度目である。
「なにがあっても背筋を正して、相手の目から目をそらさない。特出したものを持ちたければ、皆が出来ないことをするの!」
「申し訳ありません……」
傍で、密やかに足を崩していた木島くんと、背を丸めていた杏奈が急に姿勢を直した。名取川文乃がそれまでも咎めることをしないのは、これはあたしの特訓なんだろう。
お隣の朱羽は……全く動じた様子もない。表情も姿勢も。
鉄仮面に鉄鎧。
うおっ、完全アイアン武装ですかっ!
名取川文乃は言った。
「疾(はや)きこと風の如く、徐(しず)かなること林の如く、侵掠(しんりゃく)すること火の如く、動かざること山の如し……これを軍旗に掲げた戦国武将は誰か知っている?」
木島くんが朱羽より先に手を上げた。
ちなみにあたしは、年末時代劇スペシャルをよく見ているクチ。
だから、それくらいはわかる。
風林火山――。
「武田信玄っす!」
あたしと同じ答えだ。

