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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon

「どこの国の?」
間髪入れずに彼女が尋ねた。
ええと、どこの国だっけ……。
「甲斐の国……今の甲州、山梨県っす!」
「正解よ」
名取川文乃は頷き、木島くんが嬉しそうにバンザイ。
「では木島さん。武田信玄が帰依して、禅を学んだのはどなたから?」
「え……」
木島くんは両手を挙げたまま、絶句して固まる。
そしてちらりとあたしを見たが、あたしが答えられるわけがない。
時代劇を見ていても、そういえば晩年は坊さんになっていたな、程度しかわからず、もしかしてテレビでやっていたのかもしれないが、あたしの記憶には残っていない。
「香月さんは?」
朱羽は、眉間に少し皺をたてて考え込み、言った。
「自信がないんですが……」
「いいわよ、言ってみて?」
「織田信長に焼き殺された、恵林寺の快川禅師(かいせんぜんじ)、では?」
「正解です」
三人とも尊敬の眼差しで、少し紅潮した顔で喜んでいる朱羽を見た。
このアメリカ帰り、日本史も出来る!
「香月さんが仰ったとおり、快川禅師は織田信長によって、生きながら焼き殺されました」
うわ……。
さすがは、仏をも恐れぬ第六天魔王、織田信長。
そんなことしたから、燃える本能寺で死んじゃうのよ。
「その時、残した有名な言葉があります」
"安禅不必須山水(あんぜんはかならずしもさんすいをもちいず)、
滅却心頭火自涼(しんとうをめっきゃくすればひもおのずからすずし)"
「元々は中国の詩人杜筍鶴(とじゅんかく)が書いたものなの。このうち、心頭滅却すれば火も自ずから涼し……これの意味はわかるかしら、鹿沼さん」
「なんとなくはわかるんですが……」
「いいわよ? どんな?」
「集中していれば、熱い火も涼しく感じる……でしょうか。あたしは、最後のところ、"火もまた涼し"と聞いたような気がするんですが」
すると皆が頷いた。
よかった、記憶が間違っていなかった。
「そうね。しかし杜筍鶴も快川禅師も"火も自ずから"と読んだのよ。"自ずから"というのは、そのままという意味ね。僅かにニュアンスが違うけれども、"また"の方が広辞苑にも載っている」
言葉は難しい。
"また"というのは言いやすいけれど、確かにちょっとニュアンスが違うようにあたしも思えるのだ。

