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*。:゚+ 小鳥遊 医局長の結婚生活+゚*。:゚
第18章 噂
日差しが強く、冬は屋上の唯一日陰になるベンチに座って栄一郎を待った。5分もしないうちに、売店で弁当を買ってきた栄一郎がやって来た。

「ごめん待った?」

そう言いながら栄一郎は、冬に冷たい無糖のミルク入り缶コーヒーを渡した。

「良く覚えてたわね。」

冬は笑いながらそれを受け取ると、実は私もと、栄一郎が好きな無糖のコーヒーを渡した。

「考えることは同じだね。」

ふたりで笑った。

「さっ。時間が無いから食べながら話しましょう。」

小峠のことをかいつまんで話した。

「小峠先生は女ったらしで有名らしいね。」

栄一郎も苦笑いをした。

「うん。それでね…薬物の盗難に小峠先生が関わってるって話。絶対に誰にも言わないから教えて欲しいの。」

暫く栄一郎はじっと冬の顔を見ていた。

「なんで、君がそれを知ってるの?」

院内でも知っているのは極僅かな人間だ。

「そこは今、拘ることじゃないの。」

冬の口の堅さを知っている栄一郎は、それ以上深く聞いても無駄なことを知っていた。

「…判った。で…何が知りたいの?」

栄一郎は缶コーヒーを開け一口飲んで、菓子パンの封を切った。

「小峠先生が書いて処方した睡眠薬の数と、薬局で照らし合わせた数。主に外科病棟の患者ね。」

「うーん。それは院長に聞かれて調べたんだけど、その時の記録が無いんだよね。」

「えっ…でもそれって何年か保存しておくものじゃないの?」

座っているだけで、日陰でも汗がじわじわと出て来た。

「PCには入っていると思うけど膨大な数だよ?」

風が吹くたびに冬の淡い香水の香りが栄一郎の顔を撫でた。

「でも…外科で眠剤のオーダーが増えたのがいつ頃からかなら判るでしょう?」

…香水の香りも全く変わってないんだな。

栄一郎は、懐かしさで胸が熱くなった。

「うん。それは判ってる…5年前からだ。」

お互いに歳をとったと、冬を見ながら思っていた。

「盗難が多かった薬品名も判ってるんでしょう?」

冬の目じりには笑うと小さな皺が出来た。

「ああ。超短期型のトリアゾラムとゾピクロンだよ。」

「またわかり易い王道に手を出しちゃって…。」

今度は冬が苦笑する番だった。
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