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蜘蛛の巣
第8章 光と影
遥の苛立った声色での命令に煉は扉に近付いてドアノブに手をかける
「ああ、そういえば」
部屋を出る直前、煉は今思い出したというように声を上げて遥を振り返った
「さっき皆変わりないと言いましたが、彼は違うかもしれませんね」
「……?」
「分かりませんか?」
煉はわざともったいぶって間を置き、笑みを浮かべたまま後を続けた
「神崎壮真クンですよ」
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静かな邸内に、ピアノの音だけが美しく響いている
誰でも一度は耳にしたことのある、ショパンの『子犬のワルツ』だ
「すごい! よくそんなに指動くね!」
弾き終えた結利に対し華は興奮して思わず拍手した
「いや、久し振りだからちょっと躓いた」
「えー、全然分かんなかったよ!」
同居人の中でこんなにも一緒にクラシックを楽しめる相手がいないのだろう
結利はとても嬉しそうで、照れ笑いを隠すように下唇を噛んだ
「次は何が良い? バッハ? ベートーヴェン?」
「えっとねー……じゃあショパンの……」
「またショパン?」