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蜘蛛の巣
第12章 あの日々は遠くーーー
「主役のご登場だよ!」
扉の前で外を窺っていた双子がそう叫び、バタバタと自分の席に付いた
一瞬遅れて、今宵の主賓が姿を現す
十九歳を迎えた、若きピアニストがーーー
「わ…ぁ……」
ブラウンチェックのベストにベージュのタキシード
ネクタイを締めてより大人びた雰囲気に仕上がっている
「華、どうかな?」
奥の席に向かう途中で立ち止まり、結利は華に感想を求めた
「どうって…その……」
あまりにも上品なその装いに上手く言葉が出てこない
「今日の為に仕立てたんだ。結構揉めたんだよ」
"仕立てたってそんな……"
結婚式じゃないんだから。
「よく似合ってるよ、結利。去年のアイスグレーのやつより大人っぽく見えるね」
「あー、去年のはベストも蝶ネクタイも水玉で、ちょっと子供っぽかったもんね~」
「よく覚えてるなそんなこと……」
壮真と煉の言葉に恥ずかしそうに頭を掻く結利
華は少しおいてけぼりを食らった気分だ
"やっぱりこんな人達を前に手作りのハンカチなんて渡せないよ……"
チョコレート菓子はもっと渡せなかったとは思うが。