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蜘蛛の巣
第1章 出逢い



「えと、結利くん」

「ん?」

「ピアノってどこにあるの?」

「ああ、この廊下を曲がったサロンに……」



と結利が指差したとき、ちょうどその場所から見覚えのある使用人が現れた



「げ、しまった」



結利は話しながら食べていたかじりかけのスコーン慌てて背中に隠した

だが何年も人の側に使えてきた橘の目はごまかせない



「結利様! 今何をお隠しになったんです?」



つかつかと詰め寄ると、物を出すように手で促す

結利はしぶしぶスコーンを差し出した



「……歩きながら食べていましたね?」

「……」

「全くはしたない! もう少し跡取りとしての自覚をお持ち下さい! もう十八歳なんですから……」



主従関係がまるで逆転している

結利は橘の言うことに一言も口を挟まず嵐が過ぎるのを待っていた



「……お兄様はあれだけご立派だというのに」



去り際に言ったその言葉にだけ悔しそうに強く唇を噛んでいた



「だ、大丈夫?」



そんな彼を華は心配そうに覗き込む

結利は華と目が合うとニヤッと笑ってみせた



「うん、平気平気、いつものことだから。あーでもしくったなー。まさか橘さんに見つかるとは思わなかった」


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