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蜘蛛の巣
第24章 水面下
彼がもう少し聡ければ、華の違和感の原因に気付けたのだろうか–––
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和服というのは過ごしやすいがなかなかに厄介で、例えば階段なんかはどうしたって早くは降りられない
まぁ、この男はもともと何かを急ぐタイプではないが–––
「あ、華チャン」
のんびりと階段を降りた先に、渡り廊下を駆け出そうとする女の姿が見えて声を掛ける
「あ、煉さん。おはようございます」
「おはよ〜」
軽く足踏みをするような形で完全には止まらない彼女に気付かないのか、煉はゆっくりと近付いてくる
「これから大学〜?」
「はい。あの、私急ぐので……」
「大変だねぇ、学生さんは」
遥を待たせるのではという焦りから華は体を揺らし続ける
「これを渡したくてね、声掛けたんだけど」
言いながら煉は袖口をまさぐる
手ぶらに見えて色々持ち歩けるのも和服の良さだ
「……?」
小さなクリアファイルのようなものを取り出して華に渡す