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ホントの唄(仮題)
第4章 僅か、重なりゆく情景
そんな俺が、わかり易く仏頂面をしていたからだろう。
真はふとテレビの画面より視線を移すと、軽く小首を傾げつつ訊ねた。
「オジサン、気分でも悪いの?」
「まあ、な。少なくとも、良好ではないぞ」
君のお蔭で、といった若干の皮肉を漂わせたつもりであったが、真はその意図を一切汲もうとはしない。
「朝からそんな不景気な顔してると、運にだって見放されちゃうんじゃないのぉ。スッキリさせてあげた私としては、少しはシャキッとしてほしいものだわ」
「ぐっ……」
俺は何も、頼んでねーから……。
俺の脳裏に浮かんだその他幾多の文言の全ては、真に対する抗議の意が込められたものであった。が、結果的に「スッキリ」させられてしまった事実が、それを声として発することを咎めている。
そうして口籠った俺に屈託のない笑顔を向け、真は事も無げにこんなことを言い出した。
「アハハ。そんなに難しく考える必要なんてないじゃん。もっと気楽にしてたら、それでいいのに」
「気楽……?」
「そう。気楽にいこうよ。とりあえず、私はさ――」
何処か意味ありげに向けられた眼差しに、やや怯んだ俺。
「な、なんだよ」
すると真は、いともあっさりとこう言うのだった。
「たぶん、オジサンのこと――好きなんだと思うの」
「は……?」
やっぱ……わからねえわ……コイツ。
そんな戸惑いと僅かな不安にまみえながら――。
俺の真との一日が、また始まろうとしている。