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ホントの唄(仮題)
第4章 僅か、重なりゆく情景

 俺は一応の身支度をし、部屋を出る前に再び声をかける。


「じゃあ――出かけてくるぞ」


「……」


 だが、じっと丸まった背中は、一向に返事をくれなかった。


 まあ、いいか……。


 と、頭を掻きつつも。俺は引かれていた後ろ髪を断ち切るようにして、部屋の外に出る。

 バタン――と、ドアを閉じた音。それを耳にした刹那だ。俺は真を部屋に閉じ込めたことに、ある種の罪悪感を覚えてしまう。


 この侘しい部屋で、たった一人の時間は、果たして真に――何を与える?


「はあ……」


 幾分大袈裟に、もう一度深いため息を俺はついて――。

 無力とは知りつつも仮にも真の為をと想う中年は、踵を返すと出たばかりの部屋に引き返していた。



「――!」


 戻った俺をチラリと見る真に――


「ちょっと、忘れてたんだが……。今日は職探しより、大事な用事があってだな」


「大事な……用事?」


「無理強いはしないが、よかったら――真も一緒に行くか?」


 俺がそう訊ねると、その返事はそれまで以上に俊敏なものとなった。


「うん。行く!」


 それは散歩という単語に反応する、犬さながらである。しかしながら、それを可愛く感じてしまう自分の気持ちを、否定するつもりはなかった。

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