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ホントの唄(仮題)
第4章 僅か、重なりゆく情景
真は自分一人で、生きられると感じたことだろう。実際後にはそれだけの素養を、大きく花開かせているのだ。知り合った仲間とのインディーズでのバンド活動に始まり。そしてその光り輝く魅力的な才能は、大手のレコード会社の目に止まった。
やがて、ソロとしてデビューの話が舞い込む。しかし、それとほぼ同時期であったという。
「急病でね……お父さんが、死んじゃってさ……」
「……」
俺は言葉もなく、俺はそう話す真の横顔を眺めていた。
その表情は、父親に対して想いを馳せたものに思える。半ば家を飛び出て久しかったとはいえ、その心情では俺の場合とは随分と違っていたと考えるべきだ。それ故に当然ながら、その死は取りも直さず彼女にとっての不幸となる。
波乱に揺れ動き、足掻き駆け抜けた如き思春期。だが、どうやら。その際の不幸は、突如として父親を失ったことで終わりではなさそうであるのだ。