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ホントの唄(仮題)
第4章 僅か、重なりゆく情景
父親の死を乗り越えんとすれば、尚更であったのだと思う。真は更に一人強く生きねばと、おそらくは心に秘め。だからこそ、掴みかけた好機に恐れずに挑もうとしたのだ。
だが、その想いとは裏腹。その羽根を広げんとした彼女の手足に、ギシギシと絡みついた茨。その正体はやはり、大人の世界の柵であった。
父の死後、その配偶者である「あの人」のことを、真は既に他人だと認識していたいう。当初から折り合いのつかなかった彼女が、自分に愛情など示すとも思わず。夫を失ったことには同情できても、少なくとも家族としてそれを分かち合うような関係を築いていた訳もなかった。
しかし――
「考えてもいなかったよ。あの人が、私の親権を握っていただなんて……」
その義母という人物には、巨大な功名心とそれを満たすだけの商才が秘められていた。それを聞いた俺は、自分の父親の姿をそこに重ねている。
そして、真に煌く才能があることも、その事前には承知していたのだろう。当時まだ高校生の年齢だった真がデビューを目指そうとした時、その存在は決して無視できぬものに変わっていたのだ。