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ホントの唄(仮題)
第4章 僅か、重なりゆく情景
真の言葉は終始端的なまのであるから、俺が察することができたのは、その心情と彼女を取り囲む状況のごく一部に留まる。
だが、ネット上で目にした『事務所代表の義母との確執』は、期せずしてその言葉により裏付けられることとなってしまった。
この時、真は最後に自分が歌手となるに至る、その心根の部分を語ってくれている。
「子供の頃、おばあちゃんがね。私の唄声を、褒めてくれたの。真はまるで天使のような声をしてる、ってさ。すっごく、嬉しかったんだ。その想いがいつも心の真ん中にあって、だから私は自然とその道を辿っていたんだと思うの」
「……」
「私が唄おうとしたのは、結局……おばあちゃんに褒められたかったから、なんだね」
「真――」
「ん?」
「いや……」
俺は「おばあちゃんは、今?」と訊こうとし、それを無粋と感じると口を噤んだ。
『おばあちゃん……ごめんね……』
との先程の真の言葉に、遠慮していたのだ。
家族の拠り所が、祖母である点について、俺たちは似ている。だが、その歩んだ人生はやはりあまりに違うと思う。
倍近くの時を生きていながら情けないことではあるが、俺は彼女に気の利いたことの一つも言ってやれないのだった。