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ホントの唄(仮題)
第1章 一人と一人
何より俺は、現在の己の立場を弁えている。相手が酔っている以上、俺の行為が思わぬ誤解を呼ぶ恐れを危惧すべきなのだ。
彼女を介抱しようなどという仏心を見せたばかりに。それが一瞬にして、酩酊する女性への痴漢行為へとすり替えられることだって、十分にあり得る話。
何しろ目下のところ当方は、無職の中年男。あらぬ容疑に抗弁しきれぬ可能性は、かなり高まっているように思えた。
ネガティブで慎重すぎる性格である点は、もちろん自覚している。だが、この歳まで独り身でいた男など、多かれ少なかれねじ曲がっているものだろう。
ともかく、こんな場所で呑気に寝入っている方が悪いのだ。
「じゃあ、これにて失礼――と」
俺は小声でそう言い残し、さっさとその場を立ち去ろうとする。