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第5章 景色は騒々しく

　ソイツは必要以上に俺の側に近づきながらも、やたらと大きな声で話し始めている。


「しかし、奇遇ですねぇ。つい最近も会ったばかりなのに」


　周囲に迷惑だし、もう少し小声にしてくんないかな。あと、顔が近えよ……。

　そんな愚痴をグッと押さえ、それでも大人な俺は平穏な対応を見せた。


「ホントにな。お前とは、妙な縁を感じるよ」


　こんな縁なら、そこらのゴミ箱に捨ててしまい気分だが、ね。


　そんな感じで、俺のテンションを一気に急降下させたコイツの名は――太田。この間もラーメン屋を出た処で顔を合わせた、辞めた会社の元後輩。お前のことなんかきっと誰も憶えてないだろうし、丁寧に説明しておいてやったぞ。感謝しろ。

　と、どこの誰に向けたかも不明な説明を終えた俺に、太田は更に馴れ馴れしい口を利いてきた。


「今日は、買い物っすか？」


「まあ、な」


「へえー、随分と余裕なんですねー」


「なにがだよ？」


「だって先輩、失業中じゃないすか。え？　もしかして再就職先、決まってる？　あ、だとしたら、大変失礼いたしました」


　太田はその底意地の悪さを全開にして、わざと大袈裟に俺に向かって頭を下げた。見事なまでに完全な、当てこすりである。