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ホントの唄(仮題)
第5章 景色は騒々しく
ちっ……。
俺は二度目となる舌打ち。そして不快さを隠さずに、薄ら笑う太田の顔を睨みつける。
「そんなにすぐに決まるかよ。それとなにか――無職の人間は、買い物に出掛けちゃいけねえとでも?」
「あ、イヤイヤ。ハハ、そんな顔しないでください。ちょっとした勘違いじゃないですか」
まるで愛想笑いのお手本のような顔の太田に、早くどっかに消えろ、と俺は心の底から念じた。
だがその願いも虚しく、まるで立ち去る気配を見せないこの男は何かを思い出したかのようにして告げる。
「そう言えば、聞いてます?」
「あ? なにを?」
やや苛立ちながらも、一応は訊くと――
「その感じだと、ご存じないみたいですね。実は――先輩の退社を受けて、社内ではちょっとした騒動が起きてるんですよー」
太田は思わせぶりに、そんなことを話した。
騒動……?
俺は僅かに、ざわめくものを感じる。