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ホントの唄(仮題)
第5章 景色は騒々しく

 相容れない親父に逆らい家を飛び出したのは、二十歳そこそこの頃。

 それからは、いつも何かに追われるように――。

 己が何者かに成らねばと、足掻き続けた時もあった。

 だが、広げた掌に何も齎されることはなく。

 親父に逆らったことを、密かに悔み――そんな自分をまた心底、嫌悪している。

 そんな二十代を経て、気がつけば三十代を迎え――。

 急速に早まるゆく時計の針に、やがてその心は只、平穏を求め――逃げた。

 三十五、そして、四十と。

 今の俺は何かを望むことや、希望なんて言葉を口にすることすら恥ずかしいのだと。

 自分でも知らず知らずに常に斜に構えては、目に映りゆく世の中を無関心を装い何気ない顔で眺めていた。

 運が良ければ、結婚でもしてみようか。

 もしそれが駄目なら、酒でも飲んで一人で気楽に、それなりに楽しくやればいいのさ――なんて。

 何も得ようとしなければ、また失うこともなかろうと――それは、臆病者が築きし予防線だ。


 今、腹の底から笑った俺は、そんな矮小な己の姿を、大いに笑い飛ばしている。


 この歳にして、古い殻を破り。

 そして、俺はやはり――欲しいと思った。

 失った辛さは、その時になって耐えればいい。

 その覚悟がなければ、また――こんな痛快な気分になることすら、ないのだから。


 俺はこの時、真に――真と出会えた幸運に、感謝した。

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