この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ホントの唄(仮題)
第5章 景色は騒々しく
相容れない親父に逆らい家を飛び出したのは、二十歳そこそこの頃。
それからは、いつも何かに追われるように――。
己が何者かに成らねばと、足掻き続けた時もあった。
だが、広げた掌に何も齎されることはなく。
親父に逆らったことを、密かに悔み――そんな自分をまた心底、嫌悪している。
そんな二十代を経て、気がつけば三十代を迎え――。
急速に早まるゆく時計の針に、やがてその心は只、平穏を求め――逃げた。
三十五、そして、四十と。
今の俺は何かを望むことや、希望なんて言葉を口にすることすら恥ずかしいのだと。
自分でも知らず知らずに常に斜に構えては、目に映りゆく世の中を無関心を装い何気ない顔で眺めていた。
運が良ければ、結婚でもしてみようか。
もしそれが駄目なら、酒でも飲んで一人で気楽に、それなりに楽しくやればいいのさ――なんて。
何も得ようとしなければ、また失うこともなかろうと――それは、臆病者が築きし予防線だ。
今、腹の底から笑った俺は、そんな矮小な己の姿を、大いに笑い飛ばしている。
この歳にして、古い殻を破り。
そして、俺はやはり――欲しいと思った。
失った辛さは、その時になって耐えればいい。
その覚悟がなければ、また――こんな痛快な気分になることすら、ないのだから。
俺はこの時、真に――真と出会えた幸運に、感謝した。