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ホントの唄(仮題)
第5章 景色は騒々しく
少し歩くと、真は俺にこんなことを訊ねている。
「ねえ、さっきの女の人、オジサンと付き合ってたんだよね?」
「まあ、一応はな」
「それなのに、あのイヤミな男に取られちゃったんだ」
「うん? うーん……まあ、そうなるのか、ね」
俺は口籠りながらも、仕方なくそれを認めた。
真はやはり、そんな事情をも察していたらしく。でも、それなら、敢えて蒸し返すような真似は止めてくれないものかね。気遣いってものを少しは勉強した方がいいんじゃないか、この子は……。
そんな俺の想いもよそに、真は更に掘り下げるように問う。
「そういうのって、やっぱ悔しい? それとも、哀しい?」
「それはだな……はっきり言えば、それほど真剣には付き合ってなかったと思う。それでも、少し前なら、きっと悔しがったと思うぞ。態度には出さないだろうがな」
「少し前なら? じゃあ今は、違うんだ。それは――なんで?」
「それは――」
と言いかけた時、俺は真を目を合わせると、こう言葉を濁した。
「いや……よくわからないよ。それは、まだ、な」
そんな曖昧な言葉であるのに、不思議と真は納得したかのように――
「ふーん。そっか」
と、言っていた。