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ホントの唄(仮題)
第5章 景色は騒々しく
俺はそれまでと同じように、苦笑を浮かべ。
真もまた同じく、そんな些細なやり取りを面白がっている。
これまでの数日と同じように、そのまま過ごすことはできた筈だった。
だから――これは、分岐点である。
二人が車に乗り込み方を並べ、俺がハンドルを握った――その瞬間のことだ。
「ね――キス、しよっか」
真は唐突に、そう告げている。
「……」
その時、黙って数秒。俺の中には、まだ葛藤が残されていた。
また、からかってるのか――と、そう言って一笑に伏すことは、実に簡単だと思っている。
だが、その時見つめた真が――真の瞳が、紅い夕陽を映し取り、ゆらゆらと揺れているのを、俺はじっと見つめてしまっていたから。
果たして、どう転ぶものかと、微妙なバランス感覚のままに。
「ダメ?」
と、答えを待たず、真が小首を傾げた。
それをきっかけにして、何処か危うい会話は続く――。
「真にそう訊かれて、断った男なんているのかよ?」
「それ以上の状況をスルーしてきた男が、よく言えたものだわ」
「そうだっけ?」
刹那――助手席に座っているその身が、スッと伸びたのがわかった。
そして――
「うん、そうだよ――」
そう発した直後――
まるで、何かに引合されたようにして。
二つの唇は――重ねられたていた、のだった。