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ホントの唄(仮題)
第5章 景色は騒々しく
※ ※
アパートに帰り着いた頃には、もうとっぷりと陽は落ちていた。
車を降りると、荷物を下ろそうと後部座席のドアを開ける。ショッピングモールでの衣服等の紙袋に加え、帰りに立ち寄ったスーパーで買った食材の詰まったレジ袋も。それらを一度で持てば両手が完全に塞がると考え、俺は部屋の鍵を真に手渡しながら、言った。
「先に行って、鍵を開けといてくれよ」
「うん。了解」
真はそう答えて、アパート脇の階段を軽快な足音を鳴らして、駆け上がって行く。
その背中を何気に見送って――
「さて、と」
俺は車の中から、全ての荷物を手にする。ちょっと大変だが、何とか一度で運べそうだった。
そうして、よっこらと階段を昇ると、俺の視界に入ったのは開け払ったままのドアである。それは手の塞がった俺の為に、真が開けたままにしてくれている――と、それだけの事実。自分で指示した訳ではあった、が……。
「……」
その光景を目にし、俺は不思議と感慨にふける。
俺を迎えるようにして開かれたドア。その中に、真が居ること。
それは至極、当たり前のようであり。だが、やはり違って思えた。
先の分岐点で――俺はもう、真を受け入れているの、だから。
朝までとは違っている。二人だけのその部屋を前に、たぶん俺は――意識している。