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ホントの唄(仮題)
第6章 急かされて旅立つ

 斎藤さんはそんな経緯を思い返したらしく、神妙な面持ちで申し訳なさそうに言った。


「あの時、新井さんが矢面に立ってくれなかったら、我々は皆、会社を追われていたことでしょう。本当に何とお礼を言えば、いいものやら」


「仮にも統括長ですし、そんなの当然です。お礼を言われるようなことじゃありません。大体アレは、トップダウンで始めた事業なんですよ。業績悪化のしわ寄せを、従業員だけに追わせるなんて、それ自体考えられない話だ」


 俺は当時の憤りを蘇らせ、思わず言葉に力を込める。


 まあ、しかし……。矢面に立っただなんて言われれば、聞こえが良すぎて背中の辺りがむず痒くなる気がした。俺がしたことと言ったら精々、知り合いの弁護士に頼みこの一件が不当解雇に当たるかどうか簡易調査してもらったくらいである。後は法的手段も持さないという構えを取り、経営側をけん制していただけに過ぎない。


 端的に言えば「訴えるぞ」と脅しをかけた訳だ。
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