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ホントの唄(仮題)
第6章 急かされて旅立つ
実際、労働組合を持たないような小さな企業においては、この手の事案は結構あるということ。大概のケースでは、弱い立場の労働者が泣き寝入りしてそれで終わり。例えどんな理不尽であっても、法的に訴えるなんてことは時間と労力を消費し過ぎるのだ。
もちろん面倒事が苦手な俺に、本気で訴える気なんてさらさらなかったことは言うまでもない。幸い『脅し』の効果もあり、希望退社と言う名の『肩叩き』は、未然に防ぐことができ一応の目的は果たされた。
しかしながら、それで全て平穏となる筈もない。特に俺は会社トップの心象を、著しく損ねてしまっている。正面から対立したのだから、当然といえば当然のことだった。
その後にも様々あった挙句、俺は結局退社を決意している、訳ではあるが。それについては、実は前々から考えの範疇になかったことでもなかった。会社の経営に対する不満は以前より募らせていたし、用はタイミングの問題。この数年の不慣れな仕事に、疲弊しきっていたことも大きな一因になった。
俺という人間は、どうにも。権力というものに反感を覚えずにはいられない、そんな性分であるようで。別に正義感とか格好の良いものではなく、生まれついてのアンチ体質といった処であろうか……。
もっと言えば、やや偏屈なひねくれ者といった様相である。