この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ホントの唄(仮題)
第6章 急かされて旅立つ
しかし、そんなこと言われてもな……。
「……」
斎藤さんが席を立った後、頭の中で話の内容を整理した俺であったが、正直釈然としない想いに苛まれるばかりだ。そうは言っても聞いてしまった以上は、どうかご勝手に、と開き直ることすら最早難しいように思う。
意図したことではないにせよ、今の状況を生み出している発端に、俺の存在が深く関わってしまっているのは動かしようのない事実である。
そんな風に考え事に没頭してたから、俺はすっかり失念していた。何のことかと言えば、斎藤さんの背後で聞き耳を立てていたであろう、チューリップハットの女。
「なんか、さっぱりわかんなかったけど。大変みたいだね」
真は――コーラが注がれたドリンクバーのグラスを片手に、さっきまで斎藤さんが座っていた席に移動。ストローを口に咥えながらも、一応は俺を労ってその様に言った。
「アレ、おかしいな……部屋で待ってろって、言ってあった筈だが」
後姿を見て、とっくにその存在に気づいていはいたが、俺は敢えて惚けた口調で言う。
だが、その程度のことで、真が己の行動を顧みることは、あり得ないことだ。
「あは。だって、お腹すいちゃってるし」
「さっきは、まだ減ってねーって言ってただろうが……」
「さっきはさっき! いつの話してるのよ。つーか、思い出したんだけど――普通、あの雰囲気でやめるぅ? 半裸の私をスルーして、よく冷静に電話なんか出れたものね!」
「オイ……わかったから。とりあえず、大声は勘弁……」
俺はそう言って頭を抱えてはいたが、一方でモヤモヤとした気分は少し晴れた気がしている。