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ホントの唄(仮題)
第7章 二人だけの時間に
その後、ホテルの夕食の時刻まで少し間があることもあって、海を見たいという真に付き合うと十分ほど徒歩で道を下り岬の脇に小さく広がる砂浜へと赴く。
晴天だった一日を象徴するように、落ちかけた夕陽は程広く海面にオレンジ色の輝きをゆらゆらと伸ばす。水平線を行き交う漁船の船影が、まるでそれに溶け込むように淡い。
「うわぁ、綺麗……」
波打ち際で寄り添うように立っていた真は感慨深げにそれを見つめると、自然と漏れ出たようにそう呟いていた。
夕陽に向けていた視線を、俺は何気に真のその横顔へ。一心に景色を見つめた大きな瞳は、驚いてしまうほどに印象的だ。
心の奥底を垣間見せるように若干の揺らぎを涙の膜に伝えると、それが今にも零れ落ちてしまいそうに何故か危うくも思わせ。そうでありながらも美しい夕陽の光景を一点に映し取ったかのように、鮮烈なまでの無垢な光をその最中に宿している。
そして――
「オジサン……?」
ふとその両の瞳で、真は俺を見上げた。
「真――」
俺は自然とその名を、愛しげに呼ぶ。そして意思の流れに身を委ねて、そのまま顔を近づけていった。
と、その刹那――。
真は口元を、にっ、と綻ばせる。