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ホントの唄(仮題)
第1章 一人と一人
そうして細い路地を、中頃まで進んだ時だった。
「オジサーン!」
との、やけに通りの良い大声を耳にして、俺は思わず振り返る。
どうでもいいが、「オジサン」の呼称に反応してしまう自分が、やや虚しい……。
まあ、それはいいとして――。
「アリガトー! じゃあ、まったねー!」
女は路地の向こうで、ニッコリと微笑み両手を大きく振っていた。空腹を満たしたことで、その姿は公園で見かけた時とはまるで異なり元気一杯である。
「あ、ああ……」
聴こえないであろう小声で言うと、俺もつられたように小さく右手を二、三回振る。
意外とあっさり、だったな……。
些か拍子抜けしつつ。俺はまた女に背を向けると、ようやく家路を急ぐことにした。