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ホントの唄(仮題)
第9章 対峙して、知るもの
俺が問うと、上野さんは話しながら、その言葉尻で自嘲したように笑む。
「全く、取り乱した様子は見せませんでした。じっと黙り、ずっと一人で。そんな風でしたから、私も気づくことができなかった。でも、その気持ちを察しようとした時……彼女の方がずっと、複雑な想いを抱えているのだなって……。そんなの、私が言えた義理でもないのに……」
「……」
父親の再婚後、新居に「居場所」を見つけられなかった。真は俺に、そう話している。その後、家を飛び出している真は、父親とも疎遠になっていた筈……。
上野さんの言う「複雑」との言葉と今の自嘲の笑みは、恐らくは真に対して引け目を感じてのこと、なのだろう。元々、距離が生じていた二人だけに、そんな事情が互いに歩み寄ることを難しくしたまま――現在にまで、至っている。
だが、そう考える程に違和感が肥大するのは、そんな二人が現在まで仕事を共にしてきている、という点。上野さんは自身の「野心」を認めてもいるが、果たしてその動機だけで素人目にも難解な芸能界への新規参入に踏み切れるものか……?
真から、それを望む筈はない。そして俺の目の前で話す彼女が、真の気持ちを無下にするようには思えなかった。
「真を手元に置こうと考えたのは――どうして?」
俺は、その違和感を、口に――。