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ホントの唄(仮題)
第9章 対峙して、知るもの
元の夫の死を耳にして、真の実母が上野さんを訪ねたこと自体は意外ではなく、寧ろ普通の出来事には思える。
が、しかし――
「ほんの――三秒」
「え……?」
俺は示された秒数が、何を物語るものか見当も突かない。
すると、上野さんは実に寂しげに「ふ……」と笑って――こう、告げた。
「彼の遺影を前にして――彼女が手を合わせていた――その時間です」
「……」
「生前――夫が離婚した経緯を詳細に語ることは、ありませんでした。けれど、私なりに察するものがなかった訳でもありません。そして、その時の彼女の立ち振る舞いを見て、私は確信していたのです。ああ、やはり……薄情な女(ひと)だ、と……」
失望ではなく、それは何かを諦めるような言葉の響き。
その心情に遠慮しつつも、そこまでを聞かせれた俺は、当然その先が気にかかった。
「その後……その母親と、真は……?」
とうに別れた夫に対する想いは、それとしても。否、それならば尚更に、彼女の訪問は真との会うことを望んでのこと――そうである筈だった。
なのに――
「会っていません。いいえ、私が二人を――会わせませんでした」
上野さんは、この日――最も厳しい顔をしている。