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ホントの唄(仮題)
第9章 対峙して、知るもの
「えっ……どうして?」
俺は少し唖然として、咄嗟にそう口にした。
一方では結果として『会っていない』のだということは、そう言いながらも俺は気づいている。それは、「もう、顔も思い出せない」と告げた真の言葉が語っていた。
それでも――母親はきっと、父親を失った真を心配しているからこそ――既に破綻している夫婦間とは別の感情が、そこに在るのだと疑う筈もないからこそ――俺はそれを理不尽に感じている。
そして――
「あの子――歌手デビューのオファーが、あるんですってね?」
「は……?」
「それが、あの女の――真に関しての、第一声。それから、真っ赤な唇を釣り上げ、ニヤリと愉しげに笑った」
「それは、一体……?」
「その後、彼女は続けて――自分の再婚相手が、モデル事務所の社長であると話しています。もう、お解りでしょう。つまりは、そういうこと……」
「そんな、馬鹿な!」
母親の訪問の理由は、デビューする娘の将来に『ある種』の期待を当て込んでのことだったと……?
如何に別れから時を隔てたとは言え、それは信じたくない話。が、その後の上野さんの言葉には、それが事実であろうと俺に認めさせるだけの力が込められていた。
「真は渡せない――と、私は強く思いました。同時に、この女に負けてもいけない、とも。それが現在まで、私を突き動かしている――その『野心』の源です」