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ホントの唄(仮題)
第9章 対峙して、知るもの
「……」
それまでの話を踏まえ、俺は押し黙る。行きがかり上とはいえ、真すら知らない話を知ったことへの罪悪感のようなものが募った。
すると、暫くして――
「お話したこと――全てを信じてくださいとは、申し上げません。ですが、一つだけ――」
彼女は俺の目を見据えて、しっかりとした口調で言う。
「私が夫を愛していたこと――それだけは、信じていただきたいと、切に願います」
如何に俺とて、その部分に疑いを向けようと思う筈もなく。そもそも俺に、こんな話を聞かせる義理など彼女には無いのだ。
「ええ、信じますよ。ですが――」
「……?」
「真に対しての想いは、何処に?」
その問いに少しハッとして、上野さんは思慮している様子。それから、慎重に言葉を選ぶようにして、こう答えた。
「夫は死の直前まで、真のことを気にかけて止まなかったことでしょう。その想いに殉じ、私は真を守り抜こうと決めた――今でもそれは、変わりません」
「……」
それは「愛してる」と言われるよりも、少なくともこの場では合点のゆく話となる。