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ホントの唄(仮題)
第10章 想い、知らされて
「用事は、よかったの?」
と、あっさりと訊かれた。
その気遣いが僅かでもあるなら、あんな急き立てるような電話してこなけりゃいいんじゃないすかねぇ……。
相変わらず、その精神構造がイマイチ把握できない。今の若い奴らが全部こうなのでは、と思いふとこの世の行く末を憂いてみるが、恐らくそんな筈はなかろう。この女が特別にフリーダムなだけなのだ。
真は口元をクリームでコーティングしながら、モグモグとクレープを食している。返事を待ちながら、曇りのない両の瞳で在るがままに俺を見つめていた。
「まあ、なんとかな」
そう答えながら、吸い込まれそうな瞳を見返す。そうしながらも脳裏では、駅で別れた際の上野さんとの会話を反芻してゆく。
「今日、聞いた話を俺から真に話すことはありません。貴女と会ったこと自体が秘密なので、当然と言えば当然ですけどね。それで、差し出がましいようですが――真が帰ったら一度、二人でよく話し合うべきかと。最後に、それだけお願いさせてください」
「はい、そのつもりです。だけど、少しだけ不安ですね……」
「どうして?」
「母親とのことは、やはり私の心に止めておきたいと思っています。その上で話し合ったとして――果たして、あの子が私に、新井さんのせめて半分でも心を開いてくれるでしょうか……」
上野さんは胸に手を置き、心許なげに話していた。