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ホントの唄(仮題)
第10章 想い、知らされて
風呂に行くと言ったのは、ある意味で言い訳である。俺は一階のロビーを訪れると、ソファーに腰掛けて携帯を取り出した。
「……」
電話帳に示されている番号を、上から順次眺めてゆく。確か、十年程前に登録だけはしてあった筈だ。それから一度も、発信も着信もした覚えはないが……。
「ああ、畜生。面倒だ……」
思わず、嘆くように呟きつつも――俺は一本の電話をかけている。
五回ほどのコールの末、相手はそれに応じた。
「よう――久しぶりだな」
とか、気軽な挨拶を口にしてはみたのではあるが。虚を突かれたであろうヤツにしてみれば当然、同じようにはいかないらしく。電話の向こうから聴こえた声は、最初に酷く慌ただしいものとなった。
そのテンションが鎮まるのを暫し待って、俺は要件を切り出す。
「――まあ、そう言うな。電話したのは、何も驚かせようってんじゃねえ。実は一つ――折り入って、頼みがあるんだが」
そんな風に言えば、ヤツが懐疑的になるのも仕方が無かった。きっと、ロクな用事だとは思っていまい。
俺にしてみれば別に、何ら難しいことを頼むつもりはなかった。それでも、著しく気が進まないのは事実ではあるが……。
だが、恐らく――それが必要な場面は、来るように思えた。
「ああ、明後日だ。その様に、伝えておいてくれよ」
一応の約束を押し付けるようにして、俺は最後にそう言い残し、その電話を切った。