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ホントの唄(仮題)
第10章 想い、知らされて
「うーん……強いて言うのなら、チャッピーかな」
「ちゃぴい……?」
「昔、おばあちゃんの家で飼っていた、柴犬なの」
真は悪びれた風もなく、そう答えた。
柴犬にしては、ハイカラな名前だよね……。それにしても、人ですらなく……犬って?
予想をあまりに意外な角度から覆され、俺はそれをどう咀嚼していいものかわからずに思わず言葉を失った。
「普段は、おっとりした子だったんだけど、一度ね。散歩に連れていった時のとこを、よく憶えてるんだ」
「……?」
「その頃、家の近所にね。二つか三つくらい年上で、私のことをイジめる男の子たちがいたの。その日も散歩してたら、道端でバッタリ出くわしちゃってさぁ。私、思わず足が竦んで、一歩も歩けなくなって……」
「へえ……真にも、そんな可愛い頃があったんだな」
「話の腰を折らないでくださらない。こう見えても私って当時は、気弱で幼気な美少女だったんですけど!」
自ら「美」をつける辺りが、どうもその少女時代を想像し難くさせてくれるのだが。そこをツッコむと、また面倒である。
「悪い悪い――それで?」
「うん。そしたらさ――震える私を庇うように、チャッピーが吠えたの」
真は遠い日の光景を懐かしむように、その声に情感を込め更に続けた。
「その男の子たちが思わず怯むくらいに。地面に四肢を踏ん張って――それは必死に、吠え続けてくれたんだ。私、その時――チャッピーが側にいてくれたこと、とっても心強く感じていたの……」
「……」
暗闇に慣れつつあった視界が、真の潤んだような瞳の光を捉えている。